本日(6/23)の日経金融新聞20面の「スクランブル」欄は面白い記事だった。専門知識がなければ分からないような内容ではないので、ネットでも公開すればいいのにと思うが、あいにく日経金融のサイトには要約すらない。というか、現時点ではいまだに前日である6/22の記事一覧が掲載されている有様で、日経金融は殆どネットには興味がないようである。

それはともかく、記事の見出しは「新興株『目付け役で』で明暗 – 投資家『質』の見極め重視」というもの。新興市場が低迷を続けていることから、特に2000年に公開を果たした銘柄に絞って市場、主幹事証券、監査法人(この3者が日経金融の言う「お目付け役」)別に騰落率を分析したところ、ジャスダック(現在のヘラクレス)、野村、トーマツの銘柄の上昇率が高かったというもの。

ジャスダックは孫さんが米国NASDAQを日本に呼んできて大証と「結婚」させたようなものだったが、その後夫婦は不仲となり、「嫁」がアメリカに帰ってしまったので、仕方なく名前をヘラクレスに変えて立て直しを図ったものだ。そういう事情が関係しているのかいないのか、記事は「ジャスダックのパフォーマンスが良い」ではなく、「Mothersが酷い」という書き方になっている。

市場別で見ると、不調が目立つのがマザーズ銘柄。ジャスダック銘柄が初値から平均2.2倍に上昇しているのに対し、マザーズはわずか1%高にとどまる。全27銘柄のうち16銘柄が初値割れの状態だ。元社長が逮捕された旧リキッドオーディオ・ジャパン、粉飾決算で上場廃止になったアソシエント・テクノロジー、そしてライブドアと、絶え間ない不祥事が背景にある。

主幹事証券は野村銘柄が圧倒的だった。

全157社は公募価格から平均89%上昇しているが、「野村銘柄」は2.7倍の上昇と平均を大幅に上回る。反面、「大和銘柄」や「日興銘柄」はアンダーパフォームの状態だ。

一般に、上場予備軍に対する指導や審査体制は主幹事証券の営業力に比例する。

主幹事証券は不特定多数の人間が取引を行う市場にその会社を上場させるという社会的責任があるので、業績が良いのみならず健全であることが確認できない限り申請をさせるわけにはいかない。年金暮らしのおばぁちゃんでも安心して投資できるような銘柄が望ましく、粉飾なんかして株主を騙すような会社を安易に世の中(市場)に出す訳にはいかないのだ。上場して直ぐに潰れちゃったり、上場廃止になって換金できなくなったらおばぁちゃん(に限らないが)の老後はどうなっちゃうの、という訳だ。
要するに、証券会社は上場させないと手数料が取れないので商売にならないし、かと言ってろくに管理体制も出来ていない企業を世の中に出すわけにはいかないし、というジレンマを常に抱えている。

一方、新興市場が出来たせいで簡単に上場できると勘違いしているベンチャー経営者はまだまだ多く(確かに以前と比べると格段に簡単にはなったのだが)、中にはガバナンスやコンプライアンスに全く注力しないような輩もいて、主幹事が社内体制整備の指導を行おうとすると、それを不満として簡単に主幹事を変更してしまう。

という訳で、顧客である上場予備軍の企業に対してどれだけ強くものを言えるか、という点が問題となってくる。このときものを言うのが営業力で、ぶっちゃけ、野村ならうさんくさいベンチャー企業と喧嘩別れという事態になっても、発掘力があるからもっと良い企業に集中する事が出来るのだ。一時、野村はベンチャーからは手を引いて、相手を大会社子会社に絞っていた時期もあった。実際問題、規模の大きい会社は調達金額も大きいので、小さな会社をいくつも上場させるより大きな会社をひとつ上場させた方が収益が高いこともあり得る。

反対に公開案件に乏しい中小証券はベンチャー企業に対して強く出る事が出来ず、また社内の指導・審査体制も未整備であることから、危うい企業でもとにかく市場に出さざるを得なくなってくる。大手~準大手~中小というふうに証券会社の間を流れ歩いて(主幹事を替えて)行くベンチャー企業も珍しくはない。これは市場でも同じで、一般的には新興三市場(JQ・Mothers・ヘラクレス)に断られたところが、セントレックス(明証)やアンビシャス(札証)やQボード(福証)に流れていくという図式はIPOに詳しい投資家の間では常識である。

という訳で、野村銘柄のパフォーマンスが高いのは、業績も含めて健全な企業の実力が長期的に見た場合如実に現れた結果に過ぎないのであろう。

最後に監査法人はトーマツであった。最も監査内容が厳しいと言われている監査法人の銘柄が上位に入った反面、

7月に一時業務停止となる「中央青山銘柄」は、公募価格と比べて上昇率が32%と平均を大きく下回る。

結果となった。
要するにこの記事の趣旨は、きちんとした指導の下に公開した企業こそ長期的に見た場合のパフォーマンスが高くなるので、ちゃんとやりましょうね、ということらしい。結びの言葉は、

新規上場の質にお墨付きを与える目付け役が投資家から信頼されないと、相場回復にも限界が見えてくる。

というものであった。

しかし、(大筋ではこれでいいと思うけど)必ずしもこの内容をそのまま信頼することは出来ない。

まず第一に、投資家が新興市場に上場している企業群に疑いの目をはさむようになったのは、ライブドアの強制捜査や、中央青山による「会計不信」が叫ばれるようになった今年前半以降の話で、それまでは新規上場銘柄はなんでもかんでも儲かるというバカ騒ぎぶりだった。ドリコムのような駆け出しの零細企業といってもいい規模の会社の時価総額が1,000億円を超えたり、未公開株式詐欺事件などが記憶に新しいところ。「新規上場の質」に投資家が目を向けるようになったのはつい最近のことに過ぎないと。

次に、分析の対象は「2000年銘柄」に限定されている。2001年以降も含めてデータを集めた場合でも、このような「シナリオ通り」の結果がきれいに出るものであるかは分からない。

最後に、長期的な視野など始めからスタンスとしてもっていない投資家には「会計不信」などあまり関係がないということだ。PERが200倍を超えていても短期の値幅取りを狙って金を突っ込んでいくデイ・トレーダーにとっては、企業評価よりも日々の値動きや突発的なニュースが出ないかといったことの方がよっぽど重要な関心事であり、ガバナンスやコンプライアンスなど気にも留めていないだろう(彼らがそれらの情報を理解していないと言う意味ではない)。

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