今日の日経14面(投資・財務1)に「IPO相場低迷 公開前の増資価格下回る」と題した記事が掲載されている。要するに、上場の際の公募増資価格が、それ以前に増資を行ったときの値段を下回っちゃったので、含み損を抱えた株主が発生してしまった、ということだ。いい気味だ、自社の株式に分不相応な値を付けてカネを巻き上げるからこういうことになる、けーけけけ。と笑うのは簡単だが、損をこいたのは前述の通り、恐らくは経営者ではなく、公開前の私募に応じた連中だ。尤も、VCとか金融機関であればプロなのだから同情の余地はない。見通しが甘かったということになる。お友達企業とかそこのシャチョーさんとかなら(フリービットの目論見書にはミキテイの名前が載ってるねw)、どうせお付き合いで深く考えもせずに買ったのだろうから、今後ともよろしくお付き合いをすればよい。一方、従業員は可哀想だ。自分が仕えている経営者を恨むほかない。でも実株でなくストック・オプションなら支出がないので実損もない。ま、費用扱いになっちゃったから、過去の労働が損か…。

なんでこういうことになるのか。記事ではゴルフパートナーを例に、「増資した05年当時はIPO相場が過熱気味で、つられる形で増資価格も高く決まりがちだった」としているが、調べてみると、取り上げられている5社(フリービット、ジーダット、ゴルフパートナー、AQインタラクティブ、ウェブドゥ)のうち、相場に釣られそうな価格の決め方をしていたのは、ジーダットの「純資産方式と類似会社PER方式の併用」のみで、後は全部DCFを利用する形で決められている。

フリービット……………「DCFと時価純資産価格法を勘案」
ジーダット……………「純資産方式と類似会社PER方式の併用」
ゴルフパートナー……………「類似会社比準方式及びDCFを参考に協議」
AQインタラクティブ……………「純資産方式とDCFを加重平均」
ウェブドゥ……………「DCFと類似会社比準方式の折衷」

上記のうち、「類似会社比準方式」は既に上場している企業の中から似通った事業を行っているところを抜き出して参考とするから、相場に釣られることもあろうが、その他は相場とはぜーんぜん関係ない。だから日経の説明は正確ではない。ホントは記者だって分かっているが、話がややこしくなるのでわざと分かり易く書いただけである。しかも、「勘案」だの「併用」だの「協議」だの「折衷」だのと、まことに曖昧な言葉ばかりが並んでいることにお気付きのことと思うが、要するに参考価格が出た後はテキトーに決めているだけの話である(「加重平均」のみ、一見キッチリ決めているように見えるが、よく考えるとこれも分からない。いったい何をもって「加重」したのだろうか)。

さっきから何が言いたいかと言うと、要は、公開前の増資価格の高騰は、相場に釣られてなんかじゃなく、主としてDCFによる弊害が大きいんだよってこと。じゃ、DCFって何さ? って話になるんだが、その前に、あまり詳しくない人のために全体の流れをおさらい。

企業は上場していようがしていまいが、決められた枠の範囲内でいつでも増資を行って資本を増強することが出来る。だから、上場の際に行う公募増資以外にも、それ以前の段階で必要であれば、そしてお金を出してくれる人がいれば株式を発行できる。そのとき、1株いくらで発行するかは原則として取締役会で決定できることになっているので、要するにオーナー企業であればそこのシャチョーさんが自由に決められる(算定方法はいろいろある)。ところが上場の際の公募増資においてはそうはいかない。引受証券会社の意見が入るからだ。取締役会が増資価格を決めるってのは会社法の決まりだから、形式的にここは変わらないのだが、公募増資のときはヘンな価格を設定しようとしても、株式を引き受けて投資家に販売する証券会社の方が難色を示すので、実質的にシャチョーさんが一人で自由に決めるというわけには行かなくなってくる。勿論、証券会社に決定権があるわけではなく、ちゃんと「ご相談」をするんだが。

証券会社にとっては、そのシャチョーさんもお客さんだが、他方ではシャチョーさんが発行しようとしている株式を買ってもらう人たちもやっぱりお客さんだから、一方のみの意見を尊重するわけには行かない。やたらと高い値段を付けて販売しても、上場後に下がりでもしたら他のお客さんの迷惑になるでしょ。そんなこんなで、上場に際して「シンチョー」に決めた価格が、それ以前にノリノリで決めた株価を下回っちゃう場合も出てくるというわけだ。

長くなってしまったが構わず続けるw 「チェック」するだけのU35連中はとっくに他へ行っているだろうwww

で、DCFなんだが、これはDiscounted Cash Flow方式という価格決定方法で、簡単に言うと、①予想業績から予想のキャッシュ・フロー(現金を幾ら稼ぐか)を算出して、②それを現在価値に直し、③株数で割って1株の値段とする、というやり方である。このやり方は、純資産方式や類似業種/会社比準方式などと違い、「想定」だらけなのでやりようによってはどんな株価にでも操作することが出来る。これが株価が高くなりがちな理由であり、また、そうしたいシャチョーさんたちに好まれる原因ともなっている。

世のシャチョーさんたちは、とにかく自社の株価は高い方がいいと思っている。高い方がいいのは、その通りなんだけど、同じ量の資金を集めるにしてもその方が自分のシェアの減り具合が少なくて済むとかいった戦略的な理由なんぞはちっとも理解しておらず、兎にも角にも高い株価を付ければ自分の会社がピカピカになったような気がして単純に嬉しがっている輩が多い。「ワシんとこは、もうすぐ上場するんやでぇ~。だから、このくらいの値段は当然や。アンタにも少し分けてやるさかい、買うときや!!」って感じの手合いが実に多い。確かに株価が高いのは大いに結構なことである。が、実態に反して高すぎるとしたら、これは問題だ。

で、実態に反して株価を高くしたいときによく用いられるのがDCF法というわけなのである。

この方式がどんなに便利なものかを簡単に説明しよう。まず上記の①の部分。予想業績ってのは大抵の場合、その会社が作成した事業計画書中の利益計画を持ってくる。つまりシャチョーさんが鉛筆なめなめで書いたバラ色の未来図でもオッケーなわけwww これをキャッシュ・フローに直すのは、減価償却費を戻して(加算)してやる程度の簡単なやり方で行われていることが多い。前もって固定資産購入時の現金支出を差し引いておくのだが、中にはこれをomitしている酷いものもあるwww ま、この辺りは分からなくても結構。

②の現在価値に直すってのは、要するに複利計算の逆をやるだけ。100万円をX%で何年か回したらY円になるとするでしょ。この場合はY円の方が(バラ色の)予想利益として先にあるので、それをX%で割引計算(discount)を行って、現時点の価値に直しましょうってだけの話だ。ここで問題となってくるのは何%で戻せばいいのかってこと。この値が計算結果に大きく影響してくるから、ここは重要。株だから銀行金利や債券利回りは使えないよ? (後者は部分的に使うけど) 

これについては、理論的に正当と思われれば何を使ってもいいんだけど、実際にはCAPMという有名な公式が使われることが多い。面倒だしここではその必要もないのでCAPMの中身については省くけど、これもパラメータとして置く値をどこから引っ張ってくるかによって結果が大きく変わってくる代物(特にβ値)。酷いのになると、わざわざCAPM使って計算しておきながら、それでは「都合のいい株価」にならなかったのか、何の根拠もなく20%とか30%とかいった数値を資本コストとして採用して、ヘーキな顔をしている奴までいるんだ。(ノД`) これはもう算定とはいえない。

まとめると、そもそもの大前提である予想業績がシャチョーさんらの想定、計算過程においても想定を多用せざるを得ない構造となっており、中には計算すらしないでテキトーな値をでっち上げる奴までいる、ってことだ。

(計算はシャチョーさんにはムリなので、専門の算定屋に依頼することが多い。こいつらショーバイだから、シャチョーさんに「この値段でお願い」って言われたら、結論ありきで過程をでっちあげたりする。計算は横文字ばかり出てくるので一見、高度に見えたりするが、面倒なだけで実は大したことはない。Excelがあれば中学生にだって簡単に出来る。データを集めてくるのがちょっと大変なだけだ)

さあ、こうなってくると、何だってそんないい加減な方法がまかり通っているんだ、って思う人もいるだろうが、それは勿論、それなりに需要と必要性があるからに他ならない。起業直後のVBなんかは実績がないので純資産方式では評価できない、とする意見もある。まだ海のものとも山のものとも分からないのだから、そのまんま評価しときゃいいと思うんだけど、「将来性を加味して評価しなければならないっっ」なんていきり立つバカがごろごろしている。そういうのに限って現実を無視したちょーちょーバラ色なぎ業績予想といい加減な計算で弾いた算定書を持ってくるんだわ。債務超過に陥っていたりなんかすると、純資産がマイナスだから困ったことになるけど、だからと言って矢鱈に高く評価すればいいってものでもない。

株価を買う方のVCなんかはプロだから、DCFの危険性は最初から分かりきっている。それでも、固めに見積もった公開価格で採算が取れると踏んだら、投資することもある。高すぎるよと思いつつ出資してみたけど、上場したらもっと高い値段がついたりして、ウハウハ!となる場合だってあるから、取れるリスクは取る。

一個人にはそのような判断は困難なので、DCFと聞いたら伝統的算定方法で計算されたものよりも高くなってるな、と思っておいた方がいい(そうでないならDCFを使う意味は殆どない)。その後は自己判断で買うのも良し、買わないのも良し。DCFだからといって、必ず損をするという訳ではない。むしろ個人にとって未公開株が手に入るチャンスは滅多にないので、多少の危険を冒すのも悪くはないだろう。あなたが従業員でそれがオプションなら、取り敢えずは無料で貰っとけばいい話だ。

肝心なことは、DCFの大前提となっているのは予想業績なのだから、その通りに利益が推移しない場合、株価は直ぐに合理性を失ってしまう、ということを理解していないシャチョーさんが多すぎる、来期は経常利益が5億上がります、なんて言ってるケースに限って10億の赤字になってしまうことも珍しくないってことだ。IPOブームに浮かれてあまりいい加減なことをやっていると、相場が低迷したときにしっぺ返しを食らう。

[ 追記 ]

去る23日、証券取引等監視委員会は、HS証券の過去の行為が証券取引法違反にあたるとして、金融庁に処分を勧告しました。
金融庁リリース
nikkeiの報道によれば、2004年の21LADYの上場時に、

21LADYの社長は公募価格を設定する際に「時価総額100億円となる価格が妥当」、「最低でも以前発行したストックオプション(株式購入権)を上回らなければならない」などと主張。これを踏まえ、エイチ・エス証券の元公開引受部長は理論値の約2.3倍に当たる想定公募価格を設定した。機関投資家へのヒアリングなどを踏まえ、最終的に公募価格を同1.8倍の11万円とした…

ということが問題視されているそうです。

名古屋は再び火の海に – VC一夜漬blog

あっそうか!! HSに頼めば良かったんだ!!

ちなみに最後に発行した予約権の行使価額は133,333円、公募価額は110,000円。
初値は94,000円で今日の終値は49,950円ですが何か?

…いや、何かが間違ってると思うのですが。

名古屋は再び火の海に – VC一夜漬blog

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