ブログ主がプロフィールで「アジテーションを上映します。真に受けないでくださいね。」と言っていることもから分かる通り、こんなのは恐らくはてなユーザーの知的レベルを計るためのネタ・エントリだろ。にも拘らずぶくまで「主張は正論」だの「間違ってない・・・と思った」だの「おもしろいです!なるほど・・・。」だの「これをネタ扱いしている人の気がしれない、まさしくこういう状況だと思います。」だの「すごい。具体的だ。ここを看過することはもはや出来ない」だのコメントしている奴がいるのには驚愕する同時に目頭が熱くなってくる。

あのなぁ、あんだけ「似非科学」のビデオで盛り上がっておいて、こんなトンデモにころっと騙されるというのはどういうことなんだ。自分の頭では何も考えてない証拠だぞ。

その一方で、中にはちゃんと「この文章は正直?って感じ」とか「有害な文章の見本。『円が安くなってるんじゃない、ドルが高くなってるんだ!』と言われて納得するような人はどうぞ」とか「10行読んで『?』と思わなければアホじゃ」とか「最初の一行は、一見するどく見えるけど、詭弁で、メチャクチャな結論を出す」などの、まっとうな意見を表明している人もいるのが救い。

日本人の労働の価値自体は、変わらない。
サンマを一箱分、築地から目黒まで運ぶ労働の価値は、30年前と今でなんの変わりもない。100年前も変わらないし、100年後にも変わらない。
さっさと次へ行こう。もう日本という物語は終わったのです。 – 分裂勘違い君劇場

始まって僅か3行目のここで(゚Д゚)ハァ?と思わないと。

「日本人の労働の価値自体は、変わらない」って、日本人以外なら変わるの?
「サンマを一箱分、築地から目黒まで運ぶ労働の価値」が、いつの時代でも変わらない?

変わらないのは「労働の価値」じゃなくて労働量だろ。「サンマを一箱分、築地から目黒まで運ぶ」ための労働量は昔も今も大して変わらない。いや、正確に言うと労働量ですらない。複数人で作業を行ったり、車などの道具を使った場合で労働量はいろいろと変わってしまうからな。変わらないのは「サンマを一箱分、築地から目黒まで運ぶ」のに要するエネルギーの量だ。人間の関与しない物理的な要素は地球を舞台にする限り、たかだか数百年程度の単位では全くといって変わらないと見ていいだろう。

しかし、それに対して支払われる対価は時代や状況によって大きく変わってくる。

「サンマを一箱分、築地から目黒まで運」んでもらった人に支払う賃金は、「100年前」であれば恐らく何十銭とか何十円程度だったろうが、現代ではそうはいかない。この間に賃金は物価と共に上昇している。また同じ時代にあっても、雇い主によっては貰える賃金は違ってくることもある。同じ仕事に対して、A社は1,000円払っているけどB社は1,200円ということもあるだろう(これは市場が完全に機能していれば修正されてしまうが)。更に、この労働を海外に移転した場合の賃金も為替相場によって頻繁に変わってしまう。

「価値」という言葉の意味を理解せずに語っているから話が頓珍漢なことになる。財やサービスの価値を計るのに一番便利なものが通貨貨幣であり、その基本中の基本を理解していないから、のっけから議論がトンデモになってしまうのだ。労働の内容そのものは変わらなくても、その「価値」は人間が計るしかなく、それは賃金=貨幣の量で表すほかないだろう。もっと使い勝手がよく客観的なものがあるというのであれば、まずはそれを説明してから実際に「価値」とやらを語るべき。

貿易をしても、競争をしても、イノベーションが起きても、変わらない。
イノベーションによって日本人の労働の価値は常に上昇しているし、国際貿易をして、お互いが豊かになることはあっても、競争のせいで生活が貧しくなるなんてことはあり得ないんだ。
さっさと次へ行こう。もう日本という物語は終わったのです。 – 分裂勘違い君劇場

「イノベーションが起きても、変わらない」と言った直後に「イノベーションによって日本人の労働の価値は常に上昇している」とはwwww
国際貿易に関しても、グローバリゼーションとやらのお陰で搾取が問題となった挙句にフェアトレードなんてものが出てきたことについてはどうなのよ?

値札に書かれた数字が変わらないまま、みんなの気がつかないところで、物価だけが凄い速度で上昇していったんだ。
価格は変わらないまま、価値だけが急激に上昇していったんだ。
さっさと次へ行こう。もう日本という物語は終わったのです。 – 分裂勘違い君劇場

「値札に書かれた数字が変わらない」のに「物価」が「上昇」???
「値札に書かれた数字」こそが「物価」だろwwwww このときはお金の価値が下がったんだってばwwwww

「価格は変わらないまま、価値だけが急激に上昇」とか言ってるけど、いったい何の「価値」が?
モノであれば「価格」は変わる筈。統制経済じゃないんだから。戦後の闇市とか旧ソ連の裏経済を思い浮かべればすぐに分かる通り、「値札に書かれた数字」が実勢と乖離すれば、たちまち「マーケット」がそれを調整する。仮に「価値」というのが労働に対する賃金を意味しているなら、なぜそれだけが一方的に「上昇」するのかを説明しないと。

ここでも「価値」という言葉の定義を曖昧、というか意味も分からずに使っているから話がおかしくなっている。

この後もいろいろと書いてあるようだったが、グタグダもいいとこで、読むのを途中で止めちゃったよ。
これこそ「似非科学」であり、「通俗的な理解」というやつ……いや、通俗的ですらない単なるトンデモ。こんなもので何かが分かったような気になっていると勘違いしている奴は結局何も理解していない。ちょっと目新しそうな議論にころっと騙されているだけだ。

全く、こんなものに400以上のブクマが付いて、中には感激からしている奴もいるのには頭を抱えたわ。いつまで経ってもトンデモ本や詐欺が類がなくならない筈だよ、こりゃ。

問題はこのようなトンデモ論をいとも簡単に受け入れてしまう素地にある。それはある種の閉塞感や不安なのであろうが、そういうときこそよく考えて物事を見極めていかないと、あっというまに悪い奴に騙されちゃうぜ。